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事例で見るヌエックの魅力 地域とバリアフリーの価値
酒本絵梨子(ヌエネット/滑川町・嵐山町隣町在住)
はじめに
1. 日本最大の国際ウォーキング大会
2. デンマーク・エグモントフォルケホイスコーレ(Egmont Højskolen)の利用
3. 茶室の活用と伝統文化の継承
4.丸木美術館との関係
5.親子読書地域文庫全国連絡会の合宿
6.社会人のデンマーク体操のグループの利用
さいごに
はじめに
国立女性教育会館(ヌエック)は、約50年にわたり、当初の役割にとどまらず、学びの広がりを受け入れる柔軟性こそが、この施設の真価を築いてきたと言えます。当初の目的を超えて、ヌエックは多様な学びの場として発展し、女性たちが新たな知識を得てつながり、社会へと広がる拠点となりました。それは単に女性の学びの深化にとどまらず、日本全体の教育文化の発展に寄与し、国民の学習権を支える場として機能してきました。
さらに、バリアフリー環境を備えた国際的な学びの場として、海外との交流も促進し、世界に開かれた知の拠点となっています。この施設が積み重ねてきた歴史と価値を考えれば、ヌエックは単なる研修施設にとどまらない、日本社会の学びの多様性を支える公共財です。
本報告では、その具体的な事例を通じ、ヌエックが果たしてきた役割と存続の必要性について考察します。
1. 日本最大の国際ウォーキング大会
東松山市では毎年、日本最大の国際ウォーキング大会「スリーデーマーチ」を開催しています。海外からたくさんの方々が、ここを目指して3日間歩きに来るという、国際的な大会です。ヌエックはこの大会の公式の宿泊施設として紹介されていて、大会のホームページにある、3年前の第45回大会写真集では、ヌエックの入口にスリーデーマーチの参加者を歓迎しますっていう横断幕が掲げられている様子が掲載されています。
私はこちらの会場でインタビューをしました。ドイツからの参加者は7回ほどこちらを使っていて、本当にお風呂も広くて快適で、日本の方々と一緒に交流をしながら泊まれることを、すごく価値ある施設だと話していました。しかし、今年はシャトルバスが廃止されていて、本当に残念だったと言っていました。既に「機能強化」どころか機能をどんどん減らして、とても使いにくくしていることが、このインタビューでわかりました。
2. デンマーク・エグモントフォルケホイスコーレ(Egmont Højskolen)の利用
エグモント・ホイスコーレンは、デンマーク特有の学校制度である国民高等学校(フォルケホイスコーレ)の一つで、200〜300人が共に生活する寄宿学校です。生徒の約4割が障がいを持ち、障がいのある生徒全員が自らヘルパーとなる学生を選び、約半年を共に過ごすという特徴があります。エグモント・ホイスコーレンでは修学旅行として海外旅行を行い、その訪問先の一つとして日本も選ばれています。その際、バリアフリー環境が整った宿泊施設の存在が重要となります。ある日本人スタッフは「女性教育会館は、これまでエグモントの修学旅行で数回お世話になっています。エグモントの修学旅行は約40名の学生とスタッフが日本を駆け回ります。40名の団体、ましてや7〜9人の車椅子利用者が参加するため、宿泊先を探すのがとても大変です。通常のホテルはバリアフリールームが1室しかない場合が多いです。そういう意味でも、国立女性教育会館はとても使いやすく最高です」と語っています。
[動画]北欧デンマークのインクルーシブ教育:エグモント・ホイスコーレンJapan Trip 2023 Spring(YouTube)
武蔵嵐山にあるヌエックを拠点にすると、秩父や川越に行きやすいので、日本の様々なことにふれるのにとても便利です。隣町の小川町で日本の伝統文化である紙漉きについて知ることができます。ヌエックには調理室もあるので、日本の料理とデンマーク料理を作って、日本の方と交流したり、食堂がとても広いので、車椅子の方と一緒にアクティビティもしやすいです。
また、エグモントの皆さんは、2020年のパラリンピックに全校生徒300人で来る予定だったそうです。300人規模の、車いすユーザーを含んだ団体客が泊まれるところは、日本ではヌエックぐらいしかないということで宿泊予定でした。コロナで実現しませんでしたが、ここがあったからこその計画だったそうです。
今、国連から日本のインクルーシブ教育が非常に遅れてるということで、勧告を受けています。その状況でヌエックの宿泊棟・研修棟を撤去するのは、エグモントの皆さんの学びを、日本で学ぶ権利を日本政府が奪ってしまうということではないでしょうか。
3. 茶室の活用と伝統文化の継承
ヌエックの茶室である響書院(ひびきしょいん)の原型は、西本願寺の黒書院(国宝)で、和庵は、京都裏千家にある「又隠(ゆういん)」の様式を写した、本格的なものです。日本の伝統文化発信の拠点として活用できるものです。東松山市(嵐山町の隣)在住で、この茶室を利用している方は、「調理室では、灰の実習もしました。茶道にとって、灰はとても重要。昔の茶人は火事になったら、炉や風呂の灰を持って逃げる!といった具合です。その灰の一種である湿し灰を調理室とその前庭で造りました。自然の中の施設だから、風情あり、他では出来ない実習あり、という体験です。備品も揃っていて最高です」とおっしゃっています。
4.丸木美術館との関係
東松山市にある丸木美術館は、画家の丸木位里・丸木俊夫妻が共同制作した『原爆の図』をはじめ、戦争や差別、人権などの社会問題をテーマにした作品を展示する、平和と芸術のメッセージを発信する美術館です。ある大学の先生はヌエックで「丸木美術館を訪問する行程を含んだゼミ合宿を行っていた。両施設とも同じ川のほとりに立地しており、自然の中で落ち着きながら、平和について学ぶ機会を持てていた」とおっしゃっています。また、ヌエックの図書館は資料室も素晴らしく、研究のために度々訪れていたとのことです。
5.親子読書地域文庫全国連絡会の合宿
親子読書地域文庫全国連絡会(おやち連)は、全国の家庭文庫・地域文庫をつなぎ、子どもたちに読書の喜びを届けるとともに、親同士の学び合いや図書館・学校図書館の発展を願う人々の交流の場となっている団体です。おやち連が2年に1度開催する全国交流集会には、全国から200人以上が参加し、読書や子育てについての学びを深めています。
この全国交流集会の開催地として、ヌエックが利用されたことがあります。おやち連は、親子で参加できる合宿形式が特徴であり、親同士が交流するだけでなく、子どもたちも安心して過ごせる環境が重要です。ヌエックは、充実した保育室と、子どもたちが自然の中でのびのびと遊べる環境があります。親は安心して学びに集中でき、子どもたちも自由に過ごすことが可能だったそうで、親子の学びを支える貴重な場として、大きな役割を果たしてきました。
6.社会人のデンマーク体操のグループの利用
デンマーク体操チーム 副会長から、次のようなメッセージが寄せられました。
「私たちは結成27年になる社会人のデンマーク体操のグループです。結成当時より年に一回は宿泊を伴う合宿、もう一回は他のグループとの交流を目的とした交歓会をヌエックで開催して来ました。日頃は月一回、体操の練習を中心に都内での活動をして居ますが、合宿の時は日ごろの練習に加え、分野の違う講師をお招きし、プールでの水中歩行、音楽室で歌いながらの呼吸法、広い構内でのノルディックウォークなどの広い意味での身体活動を学ぶ機会となり、またいっしよに宿泊をする事で一層の親睦を深める事にも役立ってきました。
また私達はデンマークとの交流にもつとめており、四年に一度のデンマークの大会参加の為の練習会、デンマークの社会体育チームや先生をお招きしてから講習や交流の会などにもここヌエックで開催して来ました。交歓会では毎年100人余りの参加者をお迎えして、日頃の練習成果を発表し合います。一年一度の再会を喜び、共に汗を流し、また来年元気で会える様に励みましょうと声を掛け合ってお別れする1日は、私達の活動のエネルギーの源でもあります。運動習慣を持つ事が高齢者の健全な生活にいかに重要かは、言われて久しい事ですが、単に運動するだけで無く集う事の大切さを私達は常々強く感じております。その意味でも、このヌエックが大切な場所である事をお伝えしたく思います。」